世界で通用する人材の育て方~小手先の「技」の教育より、目標に向けて自走する「心技体」の教育を~

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ビジネス環境の変化が目まぐるしい現在、企業が求めてやまないのが即戦力として活躍する人材だ。市場のボーダレス化が進むなか、日本国内だけではなく、世界で通用する人材が求められている。学校教育も、その流れにしたがって企業への就職が有利な即戦力人材の育成を目指す傾向がある。ITなどの専門技術教育や語学教育が好例だろう。たしかにこれらのスキルはすぐに役立つ力になる。

しかし小手先のスキルだけでは、時代や環境変化に耐えられない。大切なのは、それらのスキルという「技(武器)」を主体的に活かすための、「心」と「体」にあたる部分。つまり目的意識と行動力を養うことなのではないだろうか。とりわけ世界を相手にすることが身近になった今、「心技体」はどのように養えばいいのか。そして学校教育は、どのような役割を果たせるのか。今回は教育・メディア系の会社を経営する成瀬久美さん(30歳)のケースから考えてみたい。
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世界を舞台にコミュニケーション教育を展開する

成瀬久美さんは、2010年4月にエターナルボーテという教育・メディア系の会社を立ち上げた若手経営者である。

もともと英語のプロフェッショナルを目指していた彼女は、2004年に大手金融機関に就職。その後、英語力のスキルアップよりも、言葉の表現スキルに関心を移し、アナウンサーに転身した。そして多言語を使用するナレーターを経て、29歳のときに、いまの会社を設立した。現在は、アナウンサーやナレーターなどの経験を活かし、主に個人・法人向けにコミュニケーションスキルを高めるワークショップ・セミナーを提供している。「コミュニケーションに悩む人は多いですが、話し方や伝え方といった表現の工夫でコミュニケーションは心がこもり、円滑になる。そのノウハウを広げていきたい」と、セミナーを開いている。クライアントは約10社。

会社設立以来、その数は着実に増えている。また成瀬さんは自身の表現力を活かして海外で紙芝居公演や、NGOと連携した国際貢献活動などを行っており、仕事の幅やニーズが国外にも広がってきている。

仕事のテーマが明確になったきっかけは、9.11

このように「言葉によるコミュニケーション」をテーマに国内外で活躍する成瀬さんだが、もともと仕事の目標が明確だったわけではない。

「大学3年生のとき、周囲には迷いなく就職活動をしている人が多かったのですが、私は具体的な進路を決めかねていました。『会社に就職しようか、海外の大学に進学しようか、それとも……』と非常に悩みました。」

進路を決めるきっかけになったのは、2002年、大学3年生のときに訪れた米国で、9.11の跡地を見たことだった。「自分の目で見ておきたくて出かけたのですが、当時は、まだWTCビルの周りの一部のビルは窓ガラスが割れていたり、ほこりを被っていたりという状態でした。WTCビルでは、世界のエリートと呼ばれる人たちが働いていたのに、あっと言う間にその生活がなくなってしまったわけです。

写真素材 PIXTA
(c) chelsea写真素材 PIXTA

何のために私は生き、限られた人生の中で何をすればよいのだろうと、非常に考えさせられました。もっと目的意識を持たなければと。そして世界で通用するプロフェッショナルになりたいと思うようになった。そのためには国際言語の英語は必須ですから、まずは英語のプロである通訳レベルの英語力を身につけようと決意を固めたのです」

カナダに通訳を養成する専門学校があると聞き、成瀬さんは大学卒業後に単身留学した。そして半年間の課程を修め、語学力を鍛えた。その後、ニューヨークでのインターンシップを経て、就職した金融機関では海外マーケットのリサーチに携わり、英語の実務能力を身につけることができた。「もともと学生の頃から語学は好きでしたが、英語のプロになるという明確な目的意識をもった後の方がよく身についたと思います」。

目標設定を柔軟に変化させ、金融ウーマン→アナウンサー→経営者へ

成瀬さんは、その後、通訳や海外駐在員を目指す道は選ばず、アナウンサーの道を進む。勤めていた金融機関の商品PRビデオのナビゲーターにたまたま起用されたのがきっかけだったという。このビデオ出演を機に、彼女は言葉や表情、動作によって何かを表現し、伝えることに興味を覚えた。そのようなコミュニケーションスキルを追求したい。そして、それができる仕事がアナウンサーだ。彼女はそう考えると、1年後には地方のケーブルテレビ局に転職した。

それ以降も成瀬さんは、まずは目の前の仕事に取り組み、業務内容を見極め、その後の仕事の目標を明確にし、行動に移す。この主体的な思考と行動のスタイルをとり続けていく。その結果が実践的なスキルの獲得に役立ち、独立にもつながったようだ。一見、日本企業からは疎まれそうなスタイルだが、彼女の場合、現在も前職の会社と取引があるというから、独立後も企業にとって戦力であり続けている。

目的意識と行動力を育むために学校教育ができること

このような主体性を身につけたのは、もとをたどれば学校教育の影響が大きかったと成瀬さんは語る。

「私は小中高一貫の、いわゆるミッションスクールに通っていました。学校では毎週、宗教(道徳)の授業がありました。その授業は、聖書のことを学ぶだけでなく、『自己実現とは何か』、『自分の大切にする価値観は何か』といった自分と向き合うための時間でした。ある先生の授業では、毎回10分ぐらいうつ伏せになって考える時間があったり、ある時は学校の屋上で1時間まるまる考える時間を与えられたりすることもありました。その時間の中で、私は自分を見つめ直したり、世の中のことを考えたりしていました。このような授業の影響もあり、私は目的意識をもち、行動するようになったのだと思います。」

写真素材 PIXTA
(c) カズっち写真素材 PIXTA

こうしてみると、成瀬さんは恵まれた教育環境に育ってきたと言える。

いまの学校教育の現場では、手に職をつけるためだけの技術教育や、トレンドのみを重視した語学教育などが多い。この技術的側面も自立した人材を育むうえで欠かすことができないファクターだが、それだけではないようだ。重要なのは、それらの技術を活かすフィールドを自ら創りしていける目的意識を育み、行動力を養うこと。教育ができることは、そのための十分な時間と場を提供することだろう。それは、多少迂遠なようだが、企業の人材育成にもあてはまるのかもしれない。

~登場人物のご紹介~

成瀬久美

1980年、東京都生まれ。東洋英和女学院大学卒。大手金融機関勤務を経て、2005年、栃木県のケーブルテレビ局に入社。アナウンサーとしてニュース番組からバラエティ番組まで幅広く担当する。その後、2008年に語学サービス会社に入社し、ナレーション、コーディネート業務、NPO活動などに携わる。

2010年4月にエターナルボーテ株式会社を設立し、代表取締役社長/CEOに就任。
HP: http://www.eternelbeaute.jp/

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■”日本の教育を世界へ”アスノバの「AsunoMagazine」2011/06/10 No.008

発行:アスノバ株式会社 http://asunova.com/
発行人/有田一喜
編集 /安井元規・平田彩恵
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