節電の暗闇から、新しい光の文化を模索する動き

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日本離れが急速に進んでいます。未曾有の震災に伴う、原発事故が解決をみない中、諸外国から見た日本の姿が急速に変貌しています。震災発生直後は日本人の団結力や秩序正しさが高く評価されました。しかし国境を越える放射能汚染への不安が諸外国の日本離れを引き起こしています。

今回は、そのような日本離れの現状を追うと同時に、次世代の照明として開発が急ピッチで進むLED(発光ダイオード)の可能性を探ってみました。

そこから震災後の日本のチカラを問い直してみたいと思います・・・

「安全・安心」イメージ崩壊が引き起こす、日本離れ

震災前、諸外国での日本のイメージは「安全・安心」だった。治安の良さや日本の商品・サービスの質の高さが高く評価されてきた。しかし震災後、そのイメージは一変し、深刻な影響が表面化している。具体的に、3つの数値から見てみよう。

1つ目は、訪日外国人数。2011年3月に来日した外国人は35万2800人(日本政府観光局(JNTO)調べ)で、前年同月から半減している。JNTOの調査によると、その原因は「特に原子力発電所事故により、旅行の前提となる安全・安心に対する懸念が高まったこと」だ。政府は訪日外国人数3000万人という目標を掲げてきたが、「見通しの修正は避けられないでしょう」(旅行業界OB)。震災や原発とは直接関係ない地域でも旅行客は減り、観光産業は大きな打撃を受けている。

2つ目は、留学生の帰国者数。震災後、多数の留学生が帰国した。被災地の東北大学(宮城県仙台市)では、約1500人の留学生の大半が帰国。岩手大学(岩手県盛岡市)でも約200人の留学生のうち約8割が一時帰国中だという。なかには、城西国際大学(千葉県東金市)のように917人の留学生のうち約8割が帰国した大学もあり、大学経営への影響も小さくはない。留学のキャンセルも相次いでいる。

3つ目は、日本製品の輸入制限国数。被災地の農産品を主な対象に何らかの輸入制限措置を講じる国が増えた。米国、ロシア、中国など、その数は20ヵ国以上にのぼる。なかには風評被害や過剰反応もあるだろうが、これまで日本が積み上げてきた「安全・安心イメージ」は崩壊の危機にある。

逆境の中、反転攻勢を強めるLED業界

このように日本のイメージダウンが進む中、国内産業は守勢に立たされている。

直接的な震災の被害はもちろん、材料・部品不足、節電などにより従来の経済活動は困難な状況だ。しかし、こうした逆境の中で反転攻勢を強める業界がある。LED(発光ダイオード)業界だ。GfKジャパンの調査によると、2011年4月4~10日のLED電球の販売数は全国で前年同期の2.2倍、関東・甲信越では、2.8倍にのぼるという( http://www.gfkjpn.co.jp/update_file/pdf/258.pdf )。

もともとLED照明は、その耐久性や省エネ効果から次世代の照明として注目され、市場規模は毎年拡大していた。ただ、従来の照明に比べて割高で、導入は漸進的だった。しかし震災後、首都圏を中心に電力不足を防ぐため、節電意識が高まった。その節電意識の高まりが、LED照明の需要を急速に増加させている。供給側のメーカーの増産も急ピッチで進む。

LED照明から日本の光の文化を見つめ直す

またLED照明の文化的側面に着目する若者も出てきている。LED照明制作者の粟屋裕太さん(27歳)だ。彼は11年前からLED照明の色彩の豊かさに魅了され、フルカラーLED照明の開発を手がけている。「LED照明の強みは、省エネ効果だけではありません。色彩の表現力が最大の強みです。1670万色の色彩が表現でき、通常の照明と表現の幅が比べものになりません」と粟屋さんは語る。

粟屋さんはLED照明だけでなく建築の設計を学んでおり、近くフランスへの留学を控えている。目標は照明の観点を建築に取り入れ、新しい建築のあり方を提案することだ。

「これまで日本では光の文化的な側面があまり注目されてきませんでした。ネオンサインが『これはパチンコ屋、あれは飲み屋』と示すように、光は何かを説明する「機能」でした。欧州のように陰影で景観の奥行きを深めたり、建築物の印象を際立たせたりして都市空間を演出するもの、つまり「文化」とはみなされてこなかった。いまの首都圏の夜の暗さは、そんな日本の光の文化を再考するきっかけにもなると思います。そのなかで、少量のエネルギーで豊かな色彩を放つLED照明は新しい光の文化をつくるカギを握る。照明のあり方が、ひいては建築や都市の形も変え得ると考えています。LED照明の製造技術は日本が世界トップです。かつてのジャポニズムのように、今後、世界に影響を与える文化を生み出せる可能性があります」。

首都圏の夜に煌々たる白熱灯の光が消えた。しかし、それは夜に「暗闇が現れた」ことの裏返しでもある。かつて作家の谷崎潤一郎は『陰翳礼讃』の中で、暗闇が生む陰影の中に日本の美を見た。もともと日本には豊かな光(=闇)の文化があったのだ。そのことを私たちは見落としてきた。LED照明は日本の光の文化を再興するチカラを宿しているのかもしれない。そこには震災後の日本のチカラを探るヒントがある。

~登場人物のご紹介~

粟屋裕太

プロフィール:
1983年、東京都生まれ。高校1年生の時からLED照明の制作を手がける。2007年、芝浦工業大学建築学科卒業。2008~2009年、ベルヴィル建築大学(パリ)に留学。
2010年、芝浦工業大学修士課程建設工学修了。「建築ジャーナル」2010年5月号に「パリの夜顔―照明に宿る都市の美意識」を寄稿。近くベルヴィル建築大学大学院に留学を予定しており、照明と建築の新しい関係を模索している。

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■”日本の教育を世界へ”アスノバの「AsunoMagazine」2011/05/09 No.007

発行:アスノバ株式会社 http://asunova.com/?m
発行人/有田一喜
編集 /安井元規・平田彩恵
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Posted in: 日本語

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